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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6546号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(二) 被告は原告の前示行為はいわゆる乗合類似行為であつて道路運送法規に違反すると主張する。

よつて審案するに、被告が経営するハイヤー、タクシー営業は、道路運送法第三条第一項第三号にいう一般乗用旅客自動車運送事業であり、一個の契約により乗車定員一〇人以下の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般自動車運送事業であつて、同条同項第三号にいう一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス事業)が複数の運送契約を前提としているのとは全くその性格を異にするのである。そして一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けた者が一般乗合旅客自動車運送事業ないしこれに類した事業を営むことは許されないところであり、もしこれに違反すれば行政上の制裁はもとより、刑事上の処罰を課せられることとされているため(道路運送法第四三条第一号、第一二八条第一号参照)、一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受けタクシー営業を行なう事業主体が、タクシーによる旅客運送の実際にあたる従業員の自動車運転手に対し、複数の運送契約によつて旅客を運送することを厳重に禁止していることは公知の事実である。ところで、本件にいわゆる乗合類似行為なる概念は法文上の用語ではないが、前述の点を考え合わせるときは、タクシー運転手が旅客との間に複数の運送契約を締結し、該契約にもとづいて旅客を運送することを指称するものと解するのが相当である。

原告はタクシー運送契約は、請負契約の一類型であるから乗合類似行為が成立するためには、複数の者を同時に運送したことでは足らず、複数の運賃支払の約束があることを要するところ、前記西島靖彦に次いで乗車した者らと原告との間には、運賃支払の約束がないから、運送契約は成立していない、と主張する。思うに旅客運送契約は請負契約の一類型であるから、注文主たる旅客と請負人たるタクシー運転手とが特定の場所から特定の場所まで運送することを約し、それに対し報酬として所定の運賃を支払う旨を約することによつて成立する諾成の有償双務契約であることは明らかであるから、複数の運送契約が成立するためには、特定の場所へ運送する旨の複数の約定とこれに対応する複数の運賃支払の約定がなければならぬことは論理上当然のことであるといわねばならない。これを本件についてみるに、原告は大井競馬場での最終レースが終わり、多数の来客が場外に出て新浜川橋を渡り大井町方面に歩行中の状態にあつたときに右新浜川橋のうえで訴外西島靖彦との間に国電大井町駅まで同人を運送する旨を約し、同人を乗車させ、ついで二人一組の第二組の客および一人の第三組の客との間にそれぞれ同駅まで同人らを運送する旨を約し、乗車させたことは前に認定したとおりである。しかして、一般に運送契約の請負人たるタクシー運転手が無料で旅客を運送するなどということは通常ありえないところであるのみならず、そもそもスポーツ会場、劇場の終了直後、一台のタクシーに未知の者が相乗りして特定の場所(たとえば国電駅、私鉄ターミナルなど)まで行く場合には、相乗りの旅は相互に意思疎通のうえ運転手との間に各人一律にその要求する運賃を支払う旨の明示もしくは黙示の合意のもとに乗車するものとみるのが相当である。したがつて、本件事案において、原告が前示のごとき状況のもとにおいて三組の乗客をそれぞ国電大井町駅まで運送する旨を約したときに、少なくとも右運送に対応する複数の運賃支払の約定がなされたものと推認することができる。してみれば、原告の右主張はこれを採用することができない。

また原告は運送終了時に運賃の不当収受を伴なわないことが明白になれば乗合類似行為が否定されると主張するが、乗合類似行為は、前述の如く複数の運送契約の締結によつて成立するものであつて、旅客がたまたま運賃を所持していなかつたりするなど何らかの事由によつて、運送終了時に運賃振受の事実がなかつたからといつて、その成立を阻却するものではない。そのほか原告は、道路運送法第一二九条第一号による処罰の対象が運賃を不当に収受した者とされていることからみても、料金不当収受の事実がないときは乗合類似行為にならないというが、右の規定は不当な運賃を収受した者に対する刑事責任を定めただけのことであり、そのことから直ちに異別の問題である乗合類似行為の成立を妨げるものと解することはできない。従つて原告のこれら主張も理由がない。

そうすると、原告は、まず、訴外西島靖彦と国電大井町駅までの運送契約を締結し、ついで二人一組の第二組の客と、さらに一人の第三組の客との間にそれぞれ運送契約を締結したものというべく、かつ該契約にもとづいてそれらの旅客を運送しており、また右契約締結当初旅客との間に運賃を支払わないという特別な合意があつたことについては原告の何ら主張立証しないところであるから、原告の前示認定の行為はいわゆる乗合類似行為に該当するものといわねばならない。

(西山要 岡垣学 瀬戸正義)

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